「病気ですか?病気じゃありません!」

 最近は患者さんの診断に性格診断がされるようになってきている。すなわち人格障害が病気として捉えられつつある。性格にしろ病気にしろどこからどこまでが障害・異常でどこからどこまでが正常なのかは判断が相当難しい。本人が自分を病気だと思っても心配性などの性格上の問題であることも多い。また家族が本人を病気だと考えても、本人は自分のことを病気だと思わないことも多い。病気や人格障害などの病気・障害は教科書で定義されているが医者一人一人の経験や理解の仕方が違っているため診断は微妙にずれるのは当然であろう。心療内科・精神科の病気・障害は人間関係で決まる一面がある。本人が困っているか、周りが困っているか心配しているかすなわち典型的には身体症状・自傷・自殺など自分の身体の危機あるいは他害・迷惑など他人への悪影響などにより病気・障害は判断される。
 特に治療上難しいのは本人が病識のないときである。しかしよく考えると自分が困っていないときは簡単に自分が病気であるとは思わないのは当然である。家族や周りが本人に病気だと言えば言うほど本人は反発するのもよくあることである。人間は自分が見えていることしか見えないし、自分が聞こえていることしか聞こえない。自分が分かることしか分からないし、感じることしか感じない。そういう自分の体験・経験を現実・事実と取り違えていることが多い。現実・事実は一人一人全く違った体験・経験をベースにして相互のコミュニケーションを通してのみ得られるものである。従ってコミュニケーションがなくなれば自分の体験・経験を現実・事実として錯覚してしまいやすい。コミュニケーションがないと自分だけの感覚、自分だけの考えすなわち誰にも分かって貰えない感覚・考え(幻聴や妄想など)が強くなり病気の症状といっていい出来事が起こる。