「病気は治りますか?」

 通常の精神科の病気は本人の体質・気質・性格と本人の現在の諸環境すなわち家族関係・人間関係・学校・仕事場などとの相互作用によって起こってくる。一般的にどんなにこころの病気になりにくい人でも環境が悪ければ病気になる。どんなにこころの病気になりやすい人でも環境がよければ病気にならない。本人の体質・気質は両親から受け継いでおり自分で決めたものではない。両親を自分で選んだわけでもない。日本で生まれ、その地域で生活し、小さい時は学校に行くことも自分では決めていない。偶然の出会いで友達も決まる。こうして出来てくる性格は本人の意志で創られたとは言えず、偶然出来てきたという一面がある。このように環境も性格も必ずしも本人の意志で創ったわけでないので、本人の病気は決して本人のせいでないことも多く、周りも本人を単純には責められないし、自分自身も自分を責めすぎるのは間違っている。
 あるストレス状況下でこころの病気になった人は病気になりたくてなった人はいない。このようなストレス状況下で自分を治そうとすなわち変えようとしてきたにも拘わらず、調子が悪くなったのである。従ってこころの病気を治すには自分だけを変えて治そうとするなどの今までのやり方を変える必要がある。現在の環境を変えること、自分の体の状態を薬物を利用して改善すること、自分を責めすぎないで自分の病気を治していける過ごし方をみつけることを通して自分の自然治癒力も一層大きくなって治っていく、否、治していける。
 このように今までのやり方を続けたり、ただ薬をのんでいるだけで病気が治ってくると考えるより、医者と相談しながら薬を利用して体調を変え、自分の過ごし方や人間関係を含む環境を調整することにより病気を治していくという考えも相当重要である。