臨場

 2010年冬、吉祥寺で無差別テロ事件が起きる。現行犯逮捕された波多野(柄本佑)は精神鑑定の結果心神喪失とされ無罪になった。2年後この事件の弁護士だった高村則夫の刺殺体が発見され、またこの事件の鑑定をしていた神奈川の精神科医加古川有三も殺された。高村の方は警視庁の検視官倉石(内野聖陽)、部下の留美(松下由樹)永嶋(平山浩行)らが検視に臨場する。倉石は両事件が同一犯人のものと推測する。警視庁捜査一課の管理官立原(高嶋政伸)は無差別テロの被害者の遺族とにらんでいた。神奈川県警の管理官仲根(段田安則)も遺族の犯行と判断していた。しかし倉石だけは遺体の死亡時刻に細工をしているとにらみ、そんな細工ができるのは警察関係者か相当な専門家であり、単に遺族の犯行ではないとにらんでいた。一方立原は神奈川県警が8年前に取り扱った事件にも注目していた。それはある青年が殺人事件の容疑者になり、仲根が厳しく追及し、高村と加古川がやはり心神耗弱と鑑定して減刑に持ち込もうとしていた。その青年は自殺したがその後犯人ではなかったことが判明する。実はその少年の父親・浦部謙作(平田満)は警察官であり、自分のことを疑いだしたのを機に自分の息子を自殺に追いやった仲根を殺そうとしていた。

 倉石は2件の殺人が死亡推定時刻を変えようとしていることに気づき、神奈川の加古川の遺体を法医解剖したのは法医学の権威安永教授(長塚京三)であり倉石の恩師でもあるが、この人が死体の死亡推定時刻を間違えるのは相当おかしくこの人が怪しいと踏んでいた。

 浦部は波多野の措置入院先に侵入し、波多野を遺族が殺そうとしている偽情報を与え、仲根を呼び寄せ息子の敵を討とうとしたが、最後は残念する。このどさくさに波多野は安永に教会に連れ出され、殺されそうになるが倉石がとめにはいる。安永は波多野の殺人現場を見ていて波多野は心神喪失ではないと感じて、波多野の裁判を傍聴しますます心神喪失ではないと確信していた。自分の妻が自殺していて自分も末期がんであることが判明し、最後に波多野や波多野を無罪にした弁護士・精神科医を殺すのが使命と思ったのである。しかし倉石は自身も妻に先立たれ、闘病しているにもかかわらず波多野を殺すのが間違いという信念を安永にぶつける。その最中に波多野は安永を逆に殺す。倉石も危なかったが寸前のところで波多野は捕まる。

 この映画は心神喪失による無罪を主張する弁護士と精神鑑定をしている精神科医に相当な疑問をぶつけている。また中心となる登場人物が妻に先立たれているという寂しさをどう処理するのかという問題も提起している。