武士の家計簿

 江戸時代後半、猪山家は算用者で前田藩のお役にたっていた。8代目の直之(堺雅人)はただ職務をまっとうするだけのお堅い侍であった。皆からはそろばんバカといわれるくらいであった。やがて直之は町同心西永与三八(西村雅彦)の娘お駒(仲間由起恵)と結婚する。そろばんしか生きる術がなくてもいいかと尋ねる直之にお駒は私も生きる術にして下さいと答えるのであった。
 お蔵米の勘定役になった直之は飢饉のときのお救い米が重役達に横流しされているのを知ったが、逆に左遷されそうになる。丁度そのとき一派の悪事が露呈し横流しの証拠になる直之の帳簿が評価され異例の昇進をする。身分が高くなるにつれ出費が重なる家計構造を直之は変えることを決意する。父信之(中村雅俊)の江戸詰めでの借金もあった。そんなとき息子直吉の袴着の祝いのお金を始末するために絵に描いたタイをお客に出し出席者皆が困惑する。しかし世間体を気にすることもなく財産も処分し猪山家は家計を立てなおすのである。質素倹約は藩財政にも生かされ藩主も喜ばすのである。
 直之は息子にも算用者として厳しい教育をしつけ、着実に直吉は出世するのである。元服をすませ直吉あらため成之は幕末の変化にも変わらない父に反発して、藩主に従って京都に出たところ大村益次郎に算用ものとしての力を認められ新政府軍の会計職に採用される。そんなとき大村と加賀者が暗殺されたとの一報が入り動揺する母に今までの厳しいしつけまで批判された直之は返す言葉がなかった。しかしそれは誤報であることがわかる。明治維新後しばらくして出世した成之は故郷に帰って、厳しく躾けた父との思い出を語り合い、父と和解するのであった。
 これだけこつこつ生きてきた人生がそれだけの重みを持っていることを感じさせてくれる映画であった。