雷 桜

 清水斉道(岡田将生)は第11代将軍徳川家斉(坂東三津五郎)の17男として生まれたが、実の母親が家斉に捨てられたことに耐えきれず斉道を虐待する。そのため斉道は夜間悪夢にうなされ、家臣の態度に激昂し刀を振り回し時々意識喪失するなどの疾患でお家断絶の危機にあった。榎戸角の進(柄本明)は将軍直々にもしこれ以上悪行が改まらない場合は榎戸の責任で処分するよう内々の命を受けていた。最近斉道に仕えるようになった瀬田助次郎(小出恵介)は庄屋出身だが斉道の乱行に命がけで立ち向かい、主君の傍で仕えることになった。悪夢にうなされた斉道に巷の話をしろと命じられた瀬田は自分の故郷の山では天狗がでるという話をする。そのため斉道は静養地に瀬田山を選んだ。
 瀬田山では天狗と恐れられていたのは田中理右衛門(時任三郎)とその娘の雷(蒼井優)親子であった。実は雷は藩同志の水争いで田中にさらわれた庄屋の瀬田家の娘遊であった。田中が遊を殺そうとした時雷が桜の木に落ち遊を殺せなくなったのである。瀬田山まで入ってきた斉道を脅そうたした雷は逆に斉道に殺されそうになるが、斉道が発作を起こし雷が介抱することになった。二人の間にはこの時愛が芽生える。
 何日か後、斉道が瀬田山まで来ていると知った斉道敵対勢力は田中に命じて斉道を殺させようとするが、遊は父田中が斉道を殺そうとするのを防ぎ、失敗した田中は雷にお前は庄屋の瀬田家の娘だと伝えて姿を消す。雷は瀬田家を訪れ、雷の母親たえは一目で自分の娘だとわかる。瀬田家で過ごすが村暮らしが難しく山で暮らしたい雷と斉道は時々瀬田山まで二人で出かけ逢瀬を重ねる。雷を助け雷の落ちた桜は斉道により雷桜と名付けられる。
 しかし病気がよくなった斉道は将軍から紀州藩を継ぐよう言われ雷にまた会いに来ると約束して別れる。しかし簡単には外出できない斉道は瀬田に命を預けさせ雷に会いに来て二人は結ばれる。斉道は敵方に狙われ、今回はからくも田中に助けられる。しかし田中は殺され、雷は侍社会の不条理を呪う。斉道も雷を選ぼうとしたが榎戸が切腹することによってお家大事に私事を捨てざるをえなくなる。
 何十年かして斉道がなくなり、主君に仕えてきた瀬田が故郷にかえるとき茶屋で瀬田山ですむ女の話したときそこにいた男が俺の母親だと言って案内してもらったらまさしく雷であった。その息子は斉道と瓜二つであった。
 この映画は恋だけでは生きていけない時代の愛のあり方と人生や侍社会の不条理を描いている。