「象の背中」

 妻と二人の子供を持っている建設会社の部長・藤山幸弘(役所広司)はある日突然肺癌末期と宣告される。余命半年と宣告された幸弘は医師の言葉に戸惑いながらも延命治療を拒否し残された時間を自分が一番大事にしたい生き方をしようとする。妻美和子(今井美樹)には悲しみを少しでも少なくするためできるだけこのことを伏せておき、長男(塩谷俊)にだけ伝えるのである。
 幸彦は普段どおりに仕事をこなしながら高校時代の初恋の相手や喧嘩別れをしていた友人とあって自分が癌で余命少ないことを伝え旧交を温めるのであった。自分が死んだあとの家族の生活保障も考えて、絶縁していた兄にも会い遺産の一部を貰えるよう頼む。ある日自分の会社の下請け会社の社長であった高木(笹野高史)と会う。高木も胃癌であり、幸弘は自分の会社があなたの会社を切ったのは分かっていたことだと伝えて謝るが、家族と別れた高木は許さず幸弘にけりを入れる。このことが幸弘に自分の感傷を慰めるための行動ではなく死と向き合い家族とともに余命をすごすことが一番大事だと思わせる。幸弘が仕事中倒れて緊急入院した後、妻にも自分の病気が分かり、退院後与えられた会社のプロジェクトをやり遂げ仕事を引き継げる後輩を社長に推薦して会社をやめ、浮気相手との別かれもすまし、最後に家族団らんの日々をすごしながらホスピスを受け入れる。妻は夫の仕事やプライベートなことにはあまり詮索をせず夫幸弘が安らかな状態で居られるよう気を使う。ホスピスに見舞いに来た兄貴(岸部一徳)は今まで音信普通であった死んでいく弟に対し弟の生き方をみとめ死後の援助なども伝える。やさしい家族、親戚、知人に看取られ幸弘は死んでいく。
 象は死に際になると群れから離れて死んでいくそうだが、人間は家族や友人にみとられて死んでいくのが一番いいのだろう。