「バベル」

 モロッコの山間の村で遊牧をしながら暮らしている貧しい一家の長アブドラは友人から一丁のライフルを買った。そして10代前半の息子達2人に山羊を襲うジャッカルを撃ち殺すために与えたのである。しかし若い息子達はことの重大さもわからず山道を通るバスに向かってライフルの試し撃ちをする。普段から兄はあまり運動反射神経がよくなく、弟のほうがはるかに命中率が高かった。弟の撃った弾がバスに乗っていたアメリカ人旅行者夫婦の妻スーザン(ケイト・ブランシェット)にあたる。
 撃たれた夫婦は自分たちの3番目の子供を病気でなくしており、そのためぎくしゃくしている夫婦の絆を取り戻しにモロッコまで旅行に来ていたのである。夫リチャード(ブラッド・ピット)は大量に出血している妻をたすけるために病院もない山間の地でガイドに助けられながら大使館と連絡をとり救出を待つ。この夫婦は子供2人を不法滞在のメキシコ人子守アメリア(アドリア・バラッザ)に預けて旅をしていたがこの事件・事故で帰れなくなったためアメリアに子供達を任す。しかしアメリアは自分の息子の結婚式があるためメキシコに帰らなければならず子供を預かってくれる仲間も見つからず、リチャード夫婦の子供2人をアメリアの甥の車にのせてメキシコまで連れていく。
 まだこの事件との関係は明らかでないが東京では聴覚障害の女子高生チエコ(菊池凛子)が非常に不安定な気持ちと性的成熟を抱えながら、生活が乱れそうになっていた。チエコの母は自殺しており父ヤスジロー(役所広司)は娘が崩れていかないように必死に支えていた。実はモロッコの事件で使われたライフルはヤスジローがモロッコでハンチングしていた時に現地のガイドにあげたものだった。国際的にはモロッコでのこの事件はテロ事件の疑いもありライフルの所有者であったヤスジローにも警察が事情聴取しにきた。チエコはこの事情聴取を母の自殺を再度調べに来たと錯覚し若い刑事(二階堂智)を呼び出し母の自殺の真相を誇張して語りながらこの刑事の前で裸になり抱かれようとする。
 モロッコでは地元の警察がライフルの所有者を割り出し、強権的に犯人アブドラを捕まえようとしていた。アブドラの子供達は警察の動きを恐れ父に本当のことを話したため、アブドラはライフルを持って息子2人と逃げようとした。途中で警察とあいアブドラ一家が逃げようとしたところ警察が発砲してきたため弟がライフルを撃ち返して銃撃戦になり兄が殺されてしまう。父と弟はこのためやっと投降する。
 スーザンの助けがなかなか来なかった。実はアメリカと違ってモロッコでは救急体制が遅れており、救急ヘリコプターなどを出す国際条約も不備でスーザンの状態は予断を許さなかったがやっとのことでヘリコプターがきてスーザンは助かるのである。その間リチャードはスーザンのため必死で動き回り夫婦の絆は回復するのである。
 一方リチャードとスーザンの2人の子供はメキシコでアメリアの息子の結婚式に参加したあと再び酒に酔った甥の車に乗せてもらって帰る途中、甥が国境の検問を破ってしまい逃げまどう途中砂漠のど真ん中にアメリアと2人の子供は放り出されてしまう。アメリアは夜昼必死に助けを探しもとめ、途中で2人の子供とはぐれ途方に暮れるなか、どうにかみんなが救出される。しかしアメリアは不法滞在と分かりメキシコに強制送還されることになる。
 スーザンは病院で手当をうけ助かり、チエコは警察がライフルの件で父に会いに来たことがわかり母の自殺についてのわだかまりを払拭し父との絆を回復する。アメリアは強制送還され、アブドラ一家は長男を失うのである。