「武士の一分」

 海坂藩の下級武士・三村新之丞(木村拓哉)は毒味役という仕事に愛想が尽きていた。最愛の妻加世(檀れい)に早く引退して子供達に剣を教えるのだというのが口癖だった。普段と変わらぬある日突然新之丞が毒味のあと倒れてしまう。藩はてんやわんやの大騒ぎであったが結局貝の毒にあたったことがわかる。数日間意識朦朧としていた間に加世は献身的な看病をして新之丞は意識を回復する。しかし意識は回復したものの新之丞の目が見えなくなっていた。新之丞はもはや武士として奉公することも出来なくなり死のうとするが加世はあなたが死ぬなら私も死ぬといって必死にひきとめる。しかし奉公の出来なくなった新之丞の生活をどうしていくかが大変難しい問題で、親戚があつまり話し合いの結果加世が顔見知りの番頭島田藤弥(板東三津五郎)に家禄を少しでも残して貰うよう頼みに行くということになった。しかし島田の屋敷で加世は島田に手込めにされたのである。やがてお城から家禄がそのままということになり新之丞は死ぬのをやめる。
 平穏に暮らしていたある日叔母の以寧(桃井かおり)が加世が男と歩いていたと言いにきた。新之丞は疑いたくなかったが、中間の徳平(笹野高史)に加世の後をつけさせた。結局加世が島田と会っていたことがわかり、加世は島田に手込めにされたが、家禄がそのままだったのが島田の口利きであり、さらに夫にばらすなどと脅かされて付き合っていたと白状する。新之丞は最愛の妻加世を離縁し、島田を許せないと思う。元同僚が家に遊びに来てくれた時に家禄が維持されたのは島田のせいではなく加世が島田に騙されていたこともわかる。
 いくら目が見えなくなっても腕のたつ新之丞は島田を絶対に許せるわけはなく、師匠木部孫八郎(緒方拳)に稽古をつけて貰いに行き目が見えなくても相手を倒すための修行をつむ。木部は目が見えなくては犬死にだといっても新之丞は武士の一分といって死んでも島田と果たし合いをする覚悟をする。やはり腕の立つ島田に果たし合いを申し込み、徳平に現場に連れて行って貰って現場の状況を聞き島田と果たし合いをする。師匠からならった背景の音の違いや切っ先を相手の剣から離さないなどの注意により油断していた島田の腕を叩ききったのである。その後島田は切腹し新之丞は加世とやり直すのである。
 死に活路を求めれば生もありうることをこの映画は語っているが、武士の魂のありかたであり我々現在の凡人にはこの覚悟は大変難しいことだろう。