母と暮らせば

 1945年8月19日、長崎に原爆が落とされた。福原伸子(吉永小百合)の次男浩二(二宮和也)は長崎医科大学に通っていたが一瞬のうちに川上教授(橋爪功)や同級生とともに死んでしまった。伸子の夫は医師をしていたが結核でなくなり、長男は戦死していた。たった一人残った次男も死んだのである。次男浩二には結婚を約束した佐多町子(黒木華)がいたが、浩二が死んでも亡骸は見つからないため結婚は浩二以外とはしないと思っていていつも伸子のもとにやってきて、心細くなった伸子の世話をいつもするのであった。伸子は遺骸が見つかるまでは浩二が死んだとは思えなかったがあれから3年もたち、もう無理だと思った。
 すると伸子にだけが生きていた浩二の姿が見えるようになった。浩二が生きていたころのことを伸子に話して、その話が悲しくて浩二が涙を流してしまうと浩二が消えるのである。浩二の思い出の一つは高校時代町子と部屋でメンデルゾーンを聞いたことだった。そんな思いでのなかで死んでしまった自分を悲しんで涙が落ち、消えてしまった。
 心細い伸子の家に上海のおじさん(加藤健一)が時々いろいろな食べ物や闇の物質をもってきてくれ、伸子は相当助かっている。そんなおじさんに町子はずっと一人でいるのかと聞かれてはっとする。そうだ町子には新しい人生がある。好きな人を見つけてもらわなあかんと思い始めた。しかし浩二は町子と結婚すると約束していたから絶対反対とおこり涙を流し消えてしまう。しかし次に浩二が現れた時にはやはり町子は結婚したほうがよいと決心したようだ。
 さて浩二がまた現れて兄貴の話になり、兄は文科に進み戦争に行ったため、お前は医科に行けと言われて医科にいったが結局原爆で死んでしまった。これは運命だといったとき伸子はこれは人間が行った悲劇だときっぱり言った。町子は教師をしていて、教え子が自分の父親の消息を復員局に訪ねて来いとおじいさんに言われたため、その児童・風見民子(本田望結)の付添で復員局にやってきた。民子はお父さんが亡くなったと言われても涙もながさず我慢していたと町子は伸子に話す。町子は付添にも関わらず涙がぽろぽろ出たが、民子はおじいさんに決して泣いては行けないこれからもしっかり生きていかなければならないと言われていたのである。町子は涙を簡単に流すなんて教師失格やと語る。しかし伸子は町子さんはそのお子さんの代わりに泣いてあげたのよと慰める。やがて町子には戦争で傷つきみんながなくなってしまったにもかかわらず生きて帰ってきて教師になった黒田正圀(浅野忠信)という好きな人が出来、二人で挨拶に来る。伸子はだんだんと元気がなくなっていたし、二人の結婚を受け入れるのは複雑な気持であった。
 ある冷たい夜に伸子は一人で布団のなかで冷たくなっていた。おじさんととなりの女性が伸子の死を発見しクリスチャンだった伸子の葬式を教会で行う。
 この映画では、伸子の寿命が尽きるときに次男の幻覚をみながら、孤独に死んでいったのはせめてもの慰めであろう。こんな悲しい人生の人も間違いなくいたであろう。