おかあさんの木

 田園地帯の土地の整備事業のため7本の古い古い桐の木の伐採を頼みに役所の職員大野(菅原大吉)と川辺(市川知宏)二人が老人ホームに入所しているさゆり(奈良岡朋子)と会う。しかしさゆりはあの木は伐ってはだめと言い張る。あれはおかあさんの木だという。そしてさゆりは100年前の話しをはじめる。長野県の小さな田舎村で美しいミツは想いを寄せていた郵便局員の田村謙次郎(平岳大)とめでたく結婚する。幸せなことに次から次に5人の子供を産む。6人目が出来たとき姉夫婦に養子としてくれと頼まれる。そのあともう一人生まれ一郎から六郎まで子だくさんで幸せであった。養子に行った子は誠という名でときどき田村家に遊びにきていた。ところが突然謙次郎が37歳の若さでこの世を去る。残されたミツ(鈴木京香)は悲しみに途方に暮れていたが五郎がお母さん泣かないでと言ったのを機に子どもをしっかり育てる覚悟が出来たのである。しかし昭和は日本が戦争に突っ走っていった時代であった。まず始めに一郎(細山田隆人)が赤紙で戦場に送られる。その時から息子たちが一人一人戦場に駆り出される。ミツは子供たちが出征するたびに、桐の木を植え始める。まるでその木に魂がこもっているようであった。やがて一郎・目が悪く乙種合格であった三郎(大鶴佐助)・四朗(大橋昌広)の戦死報告が来るのである。3人の子どもを戦死させたミツは国から愛国の母として表彰される。父の後を継いで郵便局員になっていた五郎(石井貴就)は父の同僚坂井昌平(田辺誠一)の娘さゆり(志田未来・現在奈良岡朋子)とお互い秘められた恋愛感情を持っていた。やがて五郎にも召集令状が来る。その時ミツは五郎の足もとに絡みつき五郎を離せなかった。憲兵に蹴り上げられ非国民として捕まえられる。兵事係として召集令状をミツに運んできていた鈴木実(有薗芳記)は憲兵に愛国の母であることを伝えミツの釈放に尽力したおかげで釈放される。やがて南方の戦線で二郎(三浦貴大)が戦死した報告をうけ、同戦線にいた五郎は行方不明であった。戦争が終わりミツのもとには誰もかえって来なかったが、桐の木を大事に世話し続け、最後にミツが子供たちが帰ってきた夢のなかで死んでいく。少しの時間差で五郎が帰ってきたがミツは五郎が帰ってきたのを知らずに死んでいったのである。
 国全体が戦争で若者を死に追いやったのを今後どうしたら止められようか?