蜩の記

 郡奉行の立場で主君の側室と不義密通し小姓を切り捨てたという前代未聞の罪で10年後に切腹し、その切腹の日まで藩の歴史書を完成するよう命ぜられた戸田秋谷(役所広司)の切腹の日が3年後に迫っていた。その頃場内で刃傷沙汰をおこした檀野庄三郎(岡田准一)は家老中野兵右衛門(串田和美)から罪を免ずるかわりに秋谷の切腹の日まで監視するよう命ぜられる。その監視内容は藩主の家譜に秋谷が起こした事件がどう描かれるかということと秋谷が逃亡を企てたときには切り捨てよという命令だった。幽閉中の秋谷家を訪れた檀野は秋谷の妻織江(原田美枝子)、娘薫(堀北真希)、息子幾太郎(吉田晴登)と一緒に暮らし始める。秋谷の日記蜩の記を見た檀野はありままに家譜を書く檀野の姿に感銘を受け事実はどうかという真相を探り始める。監視ではなく秋谷の人間性に魅了され、さらに娘薫との相思相愛の関係が始まる。やがて事件の真相にせまる側室お由の方(寺島しのぶ)の保管する文書を入手する。側室の子供と正妻の子供との跡継ぎ騒動が側室お由の方の子供を殺しお家騒動になってしまう。しかし主君や藩のこと考えればお家騒動ではなく家来が主君の側室と密会したということでお家騒動ではなくなる。主君兼通(三船史郎)にその罪を背負い、お家を守ってくれと言われた戸田は死と不名誉を覚悟するのである。
 謹慎中、藩の年貢取立てが厳しいなか、農民の立場に同情する。しかし農民が年貢取立て藩士を殺してしまい、何の罪もない幾太郎の友達で農民の息子の源吉が親父の身代わりになって殺される。この理不尽さを家老中野に訴えるために謹慎の身でありながら檀野は家老中野に直談判しに行く。結局家老も藩の財政立て直し、お家断絶の阻止のため汚い役を引き受けざるを得ない立場であった。家老と秋谷はどこか阿吽の呼吸で繋がっていたようである。そしてとうとう切腹の期日が来て秋谷は見事家譜を完成し、切腹し果てるのである。
 藩や藩主などの身代わりに自分の名誉を捨て藩の取り潰しを避けるような自己犠牲の精神はかなり尊く社会が安定すればよいということだろう。しかし自分の名前が穢されることに耐えられる人はごく一部だろう。