少年H

 少年H(吉岡竜樹)の父親は神戸の街で高級仕立て屋を営む妹尾盛夫(水谷豊)で、母親敏子(伊藤蘭)は熱心なクリスチャンであった。盛夫は神戸にくる世界各国のお客を相手にしていた。時は昭和16年日本が大東亜戦争に突入していった時であった。家族が通っていた教会のミセス・ステープルもあわただしく日本を離れた。少年Hは小学校5年生で肇という名前で、敏子がHというイニシャルをいれたセーターを編んでくれたのでHというあだ名が付いたのであった。その頃近所のうどん屋の兄ちゃん(小栗旬)にはオペラのレコードを聞かせて貰ったりしていた。その兄ちゃんが思想犯で捕まったり、映写技師の男ねーちゃん(早乙女太一)が病気の母親がいるにもかかわらず召集されその後脱走して憲兵に捜索され最後は自殺してしまったなどの物騒な世の中になりつつあった。また教会には敵国の宗教ということで石を投げられたりもした。
 少年Hはおかしいことは何でも口に出してしまう性格であり、絵の才能もある少年であった。ミセス・ステープルからもらったニューヨークの絵葉書を友人にみせたら父親がスパイ容疑で警察に調べられたり、自分も学校でスパイといじめられる。言いふらした友人に仕返ししようとしたとき父親の盛夫はその友人に言ったのはお前で、きっとその少年も困っているに違いないと諭す。Hはその友人と仲直りして学校でもいじめられなくなる。
 仕立ての仕事もなくなり、盛夫は消防署員になり、クリスチャンということで疑われないため母親敏子も隣組班長になる。日本の旗色が悪くなり、空襲が多くなり、妹好子は疎開する。Hは中学生になり絵がうまっかったため裸の絵を模写していると田森教官(原田泰造)ににらまれる。しかし美術にくわしい久門教官(佐々木蔵之助)に救われる。社会も学校も軍国主義だけになり、結局は焼け野原になって負けてしまう。戦後父親はしばらくぼうっとしていたが、母親は食べられない人に自分たちのごはんを与えたりしていた。近所にいた軍国主義の吉村さん(国村隼)柴田さん(岸部一徳)も田森教官も180度考え方が変わっており、久門教官も生きるのに精一杯であった。すべてが少年Hには許せなかった。父親とけんかして死のうと思ったが結局死ねずに最後は家から出て自立する。
 終戦後間もないころは、ほとんどの人が生きるのに精一杯で考え方などは二の次であった。しかし少年Hは一貫した考え方から周りに怒りを感じていたし、それが強くなって死にたくまでなってしまった。