「SAYURI」

 昭和の始め、貧しい漁師町に生まれた千代と姉の佐津は父により、花街に売られる。千代は神秘的な青灰色の瞳を持っており、置屋新田のおかあさん(桃井かおり)に気に入られるが、姉の佐津は女郎部屋に行かされる。新田には花街一の売れっ子の初桃(コン・リー)や見習いのおかぼ、大きいおかあさんなどがいた。家族から引き離されたつらさ、下働きのつらさ、何故か千代を目の敵にする初桃など幼い少女には過酷すぎる日々であった。ある日女郎部屋に姉佐津がいると聞いて姉に会いに行き、二人で花街を逃げる計画をしたが、結局逃げられず、怪我をし、さらなる借金を背負い、その上両親が死んだことを聞かされる。花街で生きることを決めたが、芸者になる稽古にも通わせて貰えなかった。そんな時会長さんと呼ばれていた立派な身なりの紳士(渡辺謙)にやさしく声をかけて貰って、こころから芸者になることを決めた。芸者になればその会長さんにあえるかも知れないと思ったのである。
 数年がたち千代に転機が訪れた。芸者のなかの芸者と言われている豆葉(ミシェル・ヨー)が千代を芸者に育てたいと行ってきた。稽古を再開し、豆葉に厳しく躾けられた千代は芸者さゆり(チャン・ツィイー)として花開く。男達を虜にするさゆりだが、彼女の心は一度あったきりの会長さんのものだった。ついに会長さんに再開し、会長さんが岩村電気の創業者だったことが分かる。会長はさゆりに特別な関心を寄せず、一方芸者嫌いの会長の友人延(役所広司)ですらさゆりに魅了される。さゆりに敵愾心を抱き罠をしかける初桃、初桃に逆らえないおかぼ(工藤夕貴)との疎遠、好きでもない男を旦那に持たなければならない水揚げなどを経験しながら輝きをますさゆり。
 しかし日本が徐々に戦争に突き進んで行く中、会社も花街もなくなり、日本が敗戦しアメリカに占領される。アメリカの将校に取り入り会社を再開するのに、会長と延は疎開している芸者さゆりに接待を頼む。さゆりはおかぼの助けをかりたが、実はおかぼはさゆりをねたんでいた。接待の場所で会長と二人で会えるようおかぼにも頼んだが、おかぼは代わりにアメリカの将校にあわせて、さゆりはその将校に乱暴されそうになるが、それを会長に見られる。しかし最後に会長と二人で会い、さゆりの本当の気持ちを伝えた。実は会長がさゆりを芸者に育てることを豆葉に頼んでいたことも告白し、さゆりを好きになった延に遠慮して近づかなかったことを話す。二人はここにはじめて愛を確かめ合う。
 日本の伝統、歌舞、着物、女性、上品さなどの素晴らしさが描かれているが、女性がつらい思いをして始めて得られた美しさであることを知っておかなければならないだろう。逆に美しさ、正しさ、豊かさなどの素晴しさはつらい思いをしないと得られない。