「容疑者・室井慎次」

 警察庁から警視庁に出向している刑事部捜査一課管理官の室井慎次(柳葉敏郎)が捜査本部長を務めていた事件の容疑者神村警官が新宿北署の厳しい取り調べのため、追いつめられてか急に興奮し我を忘れて逃走し無我夢中で駆け回る中、自動車に轢かれて死んでしまう。後で分かるがここでデジタル弁護士灰島が裏で画策し被疑者の警官神村の母親に室井を検察庁に告訴させ、検察庁の東京地検検事の窪園(佐野史郎)が室井を特別公務員暴行陵虐罪の共同共謀正犯の容疑で逮捕する。神村の事件は桜井杏子という女性が彼女の元恋人兼遊び相手の黒木をホストクラブの石本に殺させた罪を彼女のため神村が背負ったものだった。室井は検察に拘置され新米の女性弁護士小原久美子が担当になるが、警察嫌いにも拘わらず室井の人柄の真面目さに触れ保釈を勝ち取る。室井は停職をくらうが事件の真実を解明しつづけようとする。警察庁は被疑者神村を死なせてしまった警視庁の失態を責め、警視庁は警察庁所属の室井が逮捕され警察庁の問題であることを楯に取り、さらに警察庁に被疑者死亡を責められないよう捜査を続行させようとする。この国家警察庁と東京警視庁の争いの渦に翻弄され、さらに国家権力を目の敵にする灰島弁護士にすきをつかれつつも、新宿北署の刑事(哀川翔)らとともに事件を調べ上げ、桜井という女性の存在、その女性と被害者黒木、被疑者神村警官などの関係が分かる。さらに弁護士小原の働きにより灰島弁護士事務所の職員が被疑者神村の母親に働きかけ室井を逮捕させたのは桜井の父親に頼まれていたからであることも分かる。室井はかよわい女性(?)桜井の身代わりになった神村を死に追いやったこと、事件の捜査中に自分の過去すなわち大学時代に室井の恋人を死なせていることをスキャンダラスに取り上げられ警察をやめる決心をする。恋人が亡くなった真実の理由は、室井の恋人が不治の病に罹っており室井は彼女のため大学をすてて看病しようとしたのを恋人は自分のため将来を棒に振らせられないと考えて自殺したのである。プライベートな事実はゆがめられて伝えられ嫌になった室井を以前室井に助けられた管理官沖田(真矢みき)は事件をさらに調べた結果、桜井は覚醒剤を貰っていた黒木と神村の両方に愛されることに疲れ、さらにホストクラブで知り合った石本に黒木を殺させ、覚醒剤のことで色々便宜を謀って貰っていた神村に罪をかぶって貰ったことが分かる。さらに灰島の裏取引なども調べ上げ室井の罪をなくすのである。最後に室井の同僚で警察庁の長官官房審議補佐官新城(筧利夫)に中国地方の警察本部に所属するよう説得され引き受ける。
 以上警察庁と警視庁の権力争い、国家権力を目の敵にする弁護士の策略、利己主義で刹那的享楽的な桜井杏子、それらに対抗する室井の生真面目さ、それに惹きつけられる警視庁の女性管理官沖田、室井の人柄に惹きつけられる新米弁護士小原のどの人間模様が面白く描かれている。結局は手応えのある生き方が人に手応えを感じさせるということであろう。