「姑獲鳥(うぶめ)の夏」

 昭和27年の夏の話である。小説家の関口(永瀬正敏)は友人の古本屋で安部清明ゆかりの神社の神主であり憑き物落としの京極堂(堤真一)を何かと頼りにしている。ある日京極堂の妹中膳寺敦子(田中麗奈)は最近雑司ヶ谷産科大病院の久遠寺医院の娘梗子(原田知世)が妊娠20ヶ月になっても出産しないという噂があるのでそれに関する原稿を関口に依頼する。京極堂は久遠寺医院の娘梗子の婿が旧制高校の一年先輩の牧朗でありここ一年半ほど前から行方不明になっていることもあり胸騒ぎを覚え、やはり先輩の探偵榎木(阿部寛)に相談するよう関口に勧める。榎木の事務所を訪れた関口は偶然そこで妹婿の牧朗の行方を探して貰いたいという依頼をしにきた久遠寺医院の姉娘涼子(原田知世の二役)と出会う。関口は涼子との出会いになにかしら因縁を感じる。
 いよいよ榎木と関口は久遠寺医院を訪れるが梗子の病室に入ろうとした榎木はその部屋のあまりの不気味さに入れなくなる。榎木は見えない左目で他人の記憶を見ることが出来る超能力を持っていたため何かを感じたのである。代わりに関口が入るが梗子の妊娠以外には何も気付かなかった。実はそこには牧朗の死体が一年半もおいたままにされていたのにである。
 一方刑事で戦争中の関口の部下であった木場が久遠寺医院で赤子がいなくなるという事件を変死した久遠寺医院の看護婦から聞いたため捜査していた。さらに久遠寺医院の娘が赤ん坊をさらっていったという話をさらわれた赤ん坊の父親原澤から聞き出す。原澤は死んだ看護婦からその話を聞いたのである。さらに久遠寺家は他人に死んだ子を憑かせて呪い殺すおしょぼ憑きの筋だとも分かる。梗子の20ヶ月の妊娠。その夫牧朗の失踪。新生児の誘拐。憑き物筋。関口の涼子との関係。分けの分からない関口は京極堂に事件の解決を依頼する。京極堂が事件を徐々に明らかにするなか、久遠寺医院に子供を奪われたと確信した原澤は久遠寺医院を焼き討ちにくる。
 医院が焼け落ちる中、さらに京極堂は謎解きをすすめる。すなわち牧朗は学生時代涼子と関係を持ち妊娠をさせてしまうが、久遠寺の両親はそれを許さず子を堕胎させてしまう。そのため涼子は精神変調を来たし母、姑獲鳥、男性好きのニンフなどの多重人格が出現する。関口は姉の涼子すなわち京子という字と似ているため梗子と間違って愛し合う。恋愛は成就せず関口は京子を忘れざるをえなくなる。一方牧は傷心しながらもドイツ留学して立派な医師として帰国し久遠寺医院の養子となり気の確かな梗子と夫婦となる。しかしドイツ留学時代戦争の爆撃のため性的不能者になっていたため、梗子と久遠寺医院の医療助手との肉体関係を許さざるを得なくなる。そのため牧朗は自分の精子を使った人工妊娠の技術に成功し、もう梗子の医療助手との性的関係をみとめなくなる。しかし梗子は性的関係を諦められず、夫を殺してしまいそのまま想像妊娠し寝たままになる。姉の涼子は失った子供、想像妊娠したままの妹梗子、異常な赤ちゃんとして自分の子を堕胎させた両親、憑き物筋の家などなどから久遠寺医院で生まれる赤ちゃんをさらって頭を石でつぶし異常な子がうまれないようにする姑獲鳥となる。最後に焼け落ちる建物の屋上で一瞬我に帰った涼子はさらった赤ちゃんを関口に返し焼けて崩れる建物とともに死んでしまう。
 子供を奪われた母は正気をなくすのが当然だろうが、最近は自ら子供を殺してしまう母親もいるのは女性性の変化を物語っているのだろうか?