「アヴィエイター」

 20世紀始め頃、石油掘削機会社を受け継いだハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)は巨万の富を使って映画「地獄の天使」のクライマックスである空中戦を実践さながらに撮影しようととして、MGMの大御所ルイス・B・メイヤーに足りないカメラを貸してくれとたのむが簡単に断られてしまう。ハワードは強迫的な完璧主義者で自身の広報係ジョニー・メイヤー(アダム・スコット)になんとしてでもカメラを用意しろという。さらに空中戦に雲がいるということだけでUCLAの気象学教授(イアン・ホルム)を雇う。映画が出来た頃、史上初のトーキーを見たハワードは全資産を担保に入れて出来上がった映画を音声入りに撮り直した。映画のプレミアム上映の時、主演女優ジーン・ハーロウ(グウェン・ステファニー)をエスコートし、前評判が高かったのもあり、上映後万雷の拍手が鳴り響きハワードは一躍ハリウッド・セレブリティになった。
 飛行機にも興味を持っていたヒューズは飛行機会社ヒューズ・クラフト社を設立し優秀なエンジニアをやとって新型飛行機の開発に挑んだ。さらに航空会社TWAを買収し航空産業にも進出するのである。ちょうどその頃有名女優キャサリン・ヘップバーン(ケイト・フランシェット)と夜間飛行などのデートをして深い仲になる。この頃完成したジェラルミン製新型飛行機を操縦して時速566キロの世界記録も樹立する。有名人としての苦しみをキャサリンと分け合い、お互い愛し合う。しかしキャサリンの実家に遊びに行ったときにみせた全く別の顔のキャサリンにハワードがとまどったり、ハワードが別の女性とデイトするのにキャサリンが激怒したり、ハワードが大型飛行機ハーキュリーズの開発のみに集中したりして2人の間に大きな溝が出来、キャサリンは結局俳優スペンサー・トレイシーを愛するようになり、別れることになる。ハワードはキャサリンと別れたがすぐに次の恋愛相手である15歳のフェイス・ドマーク(ケリー・ガードナー)と付き合いだした。
 仕事上ではTWA社長との会食の途中、パンナム社長のホアン・トリップ(アレック・ボールドウィン)と知り合い、ハワードは国際線に乗り出す決意をし、ハワードとホアンは闘うことになる。ホアンは友人の上院議員オーウェン・ブリュースター(アラン・アルダ)を巻き込みパンナム社の独占を続けさせる「エアライン・コムニティ」法案を通させようとする。
 プライベートの問題では妻のあるスペンサー・トレイシーとキャサリンのゴシップ写真が雑誌に出るのを聞いたハワードはキャサリンに対する別れ際の冷たい態度を謝罪する気持ちでその雑誌を買い占めるのである。さらにハワードの映画「ならず者」がジェーン・ラッセルのバストを強調しているとの理由で上映禁止にされる。悪いことに、新しい恋人エヴァ・ガードナーとの付き合いに嫉妬したフェイスが、ガードナーと一緒にのっていたハワードの車にぶつけてきたりしてゴシップ写真の格好の餌食になった。追い打ちを駆けるように自らデザインした偵察機を自ら運転するテストの日に右プロペラが故障して墜落しハワードは瀕死の重傷を負う。体だけでなく彼の運命も瀕死のままであり、病床に米空軍からの戦争が終わってハーキュリーズはいらなくなったという知らせがあった。退院後空軍の軍用開発資金を不正に使ったというブリュースター上院議員が差し向けたFBIの強制捜査もあり、ブリュースターは公聴会をするという脅しをハワードに掛ける。ブリュースターによるTWAをパンナムに売れば公聴会をやめてもよいという働きかけにハワードは断固拒否する。
 ハリウッドに戻ったハワードは緊張の糸が切れたのか、強迫症状が悪化し何日も試写室に閉じこもり強迫儀式と独り言の病的世界に埋没する。そんなハワードを心配して見に来たのが、写真の件を感謝していたキャサリンだった。キャサリンはハワードに会えなかったが、ドア越しのキャサリンの言葉はハワードに勇気を与え立ち直らせる。公聴会では逆にブリュースターとパンナムの癒着をあばき、ハーキュリーズ完成のため、空軍の資金だけでなく私財も投入していることをうち明け人生の全てを賭けてハーキュリーズを完成させると公言する。戦後まもないある日ハーキュリーズはハワードの果敢な挑戦に対する報償であるかのように大空高く飛ぶのである。
 これだけの意欲、挑戦性、冒険心、勇気を持つには通常の精神力では不可能だろう。ハワードも母親に強迫的な細菌恐怖を植え付けられており、この完璧・強迫症状が常人を越えた人生をハワードに与えたと言える。