「北の零年」

 明治の始め淡路の稲田家は徳島藩との確執から明治政府により北海道への移住を命じられた。先遣隊には家老の堀部賀兵衛(石橋蓮司)、小松原英明(渡辺謙)などがいて荒地の開拓に取りかかっていた。続いて英明の妻志乃(吉永小百合)と娘の多恵をのせた船も半月がかりで北海道静内にやってきた。これから厳しい北海道の開拓を始めるのである。ところがその次の船が難破して83名の人と財産を失い、以後人は来なくなったのである。さらに廃藩置県により開墾した土地は政府の管轄になり、失望と絶望のなか英明・馬宮伝蔵(柳葉敏郎)ら家臣達は髷をきってこの地にふみとどまる決意をした。やがて冬が近づき食料が不足するなか商人持田倉蔵(香川照之)が自分の利益のため救いの手をさしのべる。さらに英明はみんなの期待を背負ってこの地で育つ稲を探しに札幌まで行くのである。半月以上たっても英明は帰らずその間に志乃は持田に襲われそうになった。この危機をアイヌとともに暮らす男アシリカ(豊川悦司)が救う。アシリカは自分が助けられずに死んだ自分の妻と子供の面影を志乃と多恵の中に見るのである。一方馬宮の妻加代(石田ゆり子)は馬宮の子供をお腹に宿し、空腹のため倉蔵に体を許す。志乃と多恵は仲間から夫英明が裏切り戻ってこないと責められながらも英明を信じて雪の中を夫を探しに行く。しかし遭難一歩手前で異国の男エドウィン・ダンに助けられる。
 数年後志乃と多恵(石原さとみ)はダンに助けられ馬を育て牧場を経営していた。またアシリカと仲間のアイヌは彼女達を助け、英明のいなくなった家を守ってきた。この年やっと育ち始めた稲がイナゴの襲来であらされ、人々に不安が渦巻くなか志乃はこの地の長に呼び出される。この地の長には持田がなっており、馬宮は馬の世話役、堀部は持田の給仕になっていた。持田は政府が土地の男を徴用しない代わりに志乃の馬を差し出せと言って来たと言う。志乃は抵抗出来ないとなかばあきらめていた。
 政府の役人として馬を引き取りにこたのは他でもない数年間音信不通の英明だった。英明は自分が病気をしたこと、ある人に救われたこと、今はその人と家族をもっていることを語り、馬を引き渡すよう志乃に頼んだ。英明は志乃の牧場に来て馬を引き取ろうとしたとき堀部、馬宮、その他の仲間達が役人に殺されてもかままない気持ちで抵抗しようとした。そのとき全ての馬が急に牧場から逃走した。馬を逃がしたのはアシリカ実は会津の藩士で五稜郭の戦いの生き残りであった。アシリカは死を覚悟していたが志乃に死なないでと言われ抵抗をやめ英明に捕まえられる。英明は馬にしてやられたといって去っていく。
 しばらくしてアシリカの友のアイヌが馬を連れ戻してきた。こうして志乃は仲間の絆を感じて牧場経営に再出発するのである。